1肺胞蛋白症(PAP)の定義と分類1)
肺胞蛋白症(pulmonary alveolar proteinosis:PAP)は、肺サーファクタントの生成または分解過程の障害により、主として肺胞腔内にサーファクタント由来物質が異常に蓄積し、呼吸不全を生じる疾患の総称です。PAPは病因により、自己免疫性PAP(autoimmune pulmonary alveolar proteinosis:APAP)、続発性PAP(secondary pulmonary alveolar proteinosis:SPAP)、先天性/遺伝性PAP(congenital pulmonary alveolar proteinosis/hereditary pulmonary alveolar proteinosis:CPAP/ HPAP)、未分類PAP(unclassified pulmonary alveolar proteinosis:UPAP)に分類されます(表1)。
表1 肺胞蛋白症の病型分類
|
抗GM-CSF自己抗体 |
病型 |
先天性/遺伝性 |
正常 |
CPAP/HPAP |
後天性 |
基礎疾患あり |
正常 |
SPAP |
増加 |
APAP |
基礎疾患なし |
増加 |
正常 |
UPAP |
井上義一. 平成22~23年度厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 総合研究報告書「肺胞蛋白症の難治化要因の解明と診断、治療、管理の標準化と指針の確立」班(課題番号 H22-難治-一般-146)より引用改変
2自己免疫性肺胞蛋白症(APAP)の発症機序
サーファクタントは、Ⅱ型肺胞上皮細胞より肺胞内に分泌され、界面活性効果によって肺胞の表面張力を低減させ、肺胞が萎縮するのを防ぎます2)。健常な肺では、サーファクタントは肺胞マクロファージによって吸収、分解され、適切な量に維持されています。肺胞マクロファージは、Ⅱ型肺胞上皮細胞より放出される顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(granulocyte macrophage colony stimulating factor:GM-CSF)によって、未熟肺胞マクロファージから成熟肺胞マクロファージへと分化することで、サーファクタントを吸収、分解できるようになります(図1)3)。
一方、APAPの肺においては、抗GM-CSF自己抗体が過剰に産生され、GM-CSFが中和されてしまいます。そのため、肺胞マクロファージのサーファクタント処理能が低下し、肺胞内にサーファクタント由来の物質が蓄積していきます(図2)4)。
Trapnell BC, et al. N Engl J Med. 2003; 349(26): 2527-2539.より作成
中田光. 肺胞蛋白症の病態と治療の最前線. 日内会誌. 2015; 104(2): 314-322.
(著者はノーベルファーマ株式会社より旅費等を受領している。)より作成
コラム肺胞と肺サーファクタント5)
肺胞表面は被覆層と呼ばれる液体の層で覆われており、そこに発生する表面張力は、肺胞を収縮させる力、および血漿やリンパ液を肺胞腔へ引き出そうとする力として働いています。この表面張力に拮抗して十分に肺胞内腔を保ち、ガス交換を行うには、肺胞被覆層中に表面張力を減少させる物質が必要となります。これがⅡ型肺胞上皮細胞から分泌される肺サーファクタン卜で、90%のリン脂質と10%のサーファクタント蛋白で構成されます。この組成により肺サーファクタントは界面活性剤として働き、肺胞の表面張力を打ち消しています(図3)。
小林勉 他.肺サーファクタント:その異常が関与する病態. 人工呼吸. 1992; 9(2): 95-100.より作成
3APAPの症状6)
APAPの主な症状は労作時呼吸困難(40%)、咳(10%)で、喀痰、体重減少、発熱などがあらわれる場合もありますが、約30%の患者は無症状です(図4)。
難病情報センター. 肺胞蛋白症(自己免疫性又は先天性)(指定難病229)より作図
4APAPの疫学1)
PAPのうちAPAPが約90%を占めるとされており、本邦の疫学調査によると、2006~2016年のAPAPの罹患率は1.65/人口100 万人7) 、APAP患者103例の予後調査から有病率は26.6/人口100万人と推計されました7)。また、約3分の2が男性、診断時年齢中央値は 51歳8)、約3分の1以上が非喫煙者で、26%8)あるいは35%7)の症例に粉塵吸入歴が認められたと報告されています。
5APAPの予後7)
本邦における103例のAPAP患者に対する疫学調査で、2年生存率、5年生存率、11年生存率はそれぞれ99.1%、97.7%、86.2%であり、平均生存期間は16.1年でした。
【引用文献】
- 日本呼吸器学会肺胞蛋白症診療ガイドライン2022作成委員会編. 肺胞蛋白症診療ガイドライン2022. メディカルレビュー社, 2022
- 田澤立之, 中田光.自己免疫性肺胞蛋白症に対するGM-CSF 吸入治療. 日薬理誌. 2011; 138: 64-67.
- Trapnell BC, et al. N Engl J Med. 2003; 349(26): 2527-2539.
- 中田光. 肺胞蛋白症の病態と治療の最前線. 日内会誌. 2015; 104(2): 314-322. (著者はノーベルファーマ株式会社より旅費等を受領している。)
- 小林勉 他. 肺サーファクタント:その異常が関与する病態. 人工呼吸. 1992; 9(2): 95-100.
- 難病情報センター. 肺胞蛋白症(自己免疫性又は先天性)(指定難病229)
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4775
- Kitamura N, et al. ERJ Open Res. 2019; 5(1): 00190-2018.
- Inoue Y, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2008; 177(7): 752-762.