1自己免疫性肺胞蛋白症(APAP)の診断1)
びまん性肺疾患で肺胞蛋白症(pulmonary alveolar proteinosis:PAP)を疑う場合、胸部高分解能 CT(high-resolution computed tomography:HRCT)にてPAPを支持する画像所見に加え、気管支肺胞洗浄液(bronchoalveolar lavage fluid:BALF)所見あるいは病理組織所見で PAPの病理細胞学的所見からPAPの診断を行います(表1および図1、2)。その後、血清抗GM-CSF 抗体が基準値以上(増加)であれば自己免疫性PAP(autoimmune pulmonary alveolar proteinosis:APAP)と診断します(図3)。抗GM-CSF抗体は2020年から検査会社での外注測定が可能となり、国内での測定が容易になりましたが、保険適用はありません(2023年時点)。
表1 肺胞蛋白症の診断基準
PAPの診断基準
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PAPの診断は、原則、以下の2項目を満たすこと。 |
- 画像所見:胸部CT(原則、高分解能CT:HRCT)で、PAPを支持する画像所見を有する注1)。
- 病理・細胞学的所見:以下のaまたはbを満たす。
- BALFで白濁の外観(米のとぎ汁様、ミルク様)を呈し、放置すると沈殿する。光学顕微鏡でPAPのBAL所見がみられる注2)。
- 病理組織(TBLB、SLB、剖検)でPAPの病理所見がみられる注3, 4)。
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- 注1)
- HRCTによる「画像基準」と「PAPを支持する画像所見」(詳細は「第Ⅱ章 肺胞蛋白症(PAP)画像所見」:p.56参照)、APAPの「画像基準」は以下の通り。
主要所見として、①GGO、②小葉内網状影および小葉間隔壁肥厚像、③crazy-paving pattern、④コンソリデーションであり、その分布は①両側性、②地図状分布(辺縁が鮮明)、③subpleural sparingである。
また、線維化所見として、①牽引性気管支拡張像、②嚢胞、③蜂巣肺をまれに認めることがある。
SPAPではGGOはほぼ全例でみられるが、crazy-paving pattern、地図状分布、subpleural sparingの頻度は低い。CPAP/HPAPでもcrazy-paving pattern、コンソリデ-ションが認められる。
「PAPを支持する画像所見」は、以上の所見のうち、以下の(1)および(2)(2012年の指針でほぼ確実例)、あるいは(1)のみ(2012年の指針で疑い例)とする。
(1)両側性のcrazy-paving patternを認める(GGO主体であることもある)。
(2)地図状分布、subpleural sparing(胸膜直下に陰影を認めない)を呈することがある。
Crazy-paving patternはほかの疾患で認められるため、鑑別が必要である。
- 注2)
- PAPのBALF光学的顕微鏡所見(詳細は「第Ⅱ章 気管支肺胞洗浄液(BALF)検査所見」:p.64参照)
- ギムザ染色、パス染色、パパニコロー染色(ライトグリーンに染色)で、背景に多数の細顆粒状の無構造物質(光学顕微鏡で観察可能である0.2μm大程度)の沈着。
- さらに大きな(数十μm程度)大のパス、ライトグリーンに濃染される、無構造顆粒状物質を認める。
- マクロファージ(細胞径40~50μm)の細胞境界が不明瞭となり、細胞外の細顆粒状物質に移行する像が認められる。
- 泡沫状マクロファージ(foamy macrophage)を認める。
- BALのリンパ球比率の増加。
- 注3)
- PAPの病理所見(詳細は「第Ⅱ章 肺胞蛋白症(PAP)の病理組織検査」:p.71参照)
- PAPの基本的な所見:左右肺にびまん性に肺病変をきたした症例で、
- a. 末梢気腔内に0.2μm大の弱好酸性細顆粒状物質が充満する。細顆粒状物質に数十μm大の好酸性物質が混在する。数μm大のlipid cleftsが混在する(ヘマトキシリン・エオジン染色)。
- b. 末梢気腔内の細顆粒状物質はパス染色で陽性所見を示す。
- c. 末梢気腔内の細顆粒状物質は免疫染色でsurfactant apoprotein(SP-A)に陽性所見を示す。
- PAPに伴うことがある所見
- a. 末梢気腔内に大型泡沫細胞が集積する。細胞質の崩壊過程を示す泡沫細胞を含む。
- b. 肺胞領域の間質にリンパ球系細胞浸潤をみる。多くは軽度まで。
- c. 間質性肺線維化病変が存在することがある。まれに肺線維化病変が著明な症例がある。
- PAPの肺病変自体では陰性の所見(他疾患と鑑別すべき所見あるいはPAP 以外の肺疾患の合併を考慮すべき所見)
a. 腫瘍性病変 b. 肉芽腫性病変 c. 好中球あるいは好酸球の浸潤 d. 壊死病変 e. 肺胞壁のうっ血 f. フィブリン析出 g. 炭粉沈着と偏光性物質の沈着
- 注4)
- PAPの診断はBAL、TBLBで十分である。PAPあるいはPAPにほかのILDの合併が疑われる場合、ほかの方法で診断できない場合にSLBが推奨される。PAPの診断にクライオ肺生検を行わないことが提案されたが、エビデンスレベルは低い。
日本呼吸器学会肺胞蛋白症診療ガイドライン2022作成委員会編. 肺胞蛋白症診療ガイドライン2022. メディカルレビュー社, 2022
- A:
- 両肺中下野優位に浸潤影が認められる。側胸壁胸膜直下、肋骨横隔膜角部に異常影を欠いている。
- B:
- 小葉間隔壁、小葉内間質肥厚像を伴うGGOが認められる。
日本呼吸器学会肺胞蛋白症診療ガイドライン2022作成委員会編. 肺胞蛋白症診療ガイドライン2022. メディカルレビュー社, 2022
- A:
- 乳び色で米のとぎ汁様の白濁を呈する。
- B:
- 好酸性の微細顆粒状および大型の無構造物質を認める。
日本呼吸器学会肺胞蛋白症診療ガイドライン2022作成委員会編. 肺胞蛋白症診療ガイドライン2022. メディカルレビュー社, 2022
- *1:
- KL-6、SP-D、SP-AはIP疑いの場合は保険で測定が可能である。CEA、CYFRAは保険適用外である。
- *2:
- 血清抗GM-CSF抗体測定は研究用として外注検査が可能であるが、保険適用外である。PAPを疑った段階で血清抗GM-CSF抗体を早期に測定することは可能である。基準値以上(増加)(これまで陽性と表現)であっても、APAPの確定診断には気管支鏡検査などによる細胞組織検査は必要である。
- *3:
- PAPの診断はBAL、TBLBで十分である。PAPあるいはPAPにほかのILDの合併が疑われる場合、ほかの方法で診断できない場合にSLBが推奨される。PAPの診断にクライオ肺生検を行わないことが提案されたが、エビデンスレベルは低い(CQ5;TBLB〔p.13〕、CQ6;TBLC〔p.15〕、CQ7;SLB〔p.18〕参照のこと)。
- *4:
- 血清GM-CSF濃度、GM-CSFシグナル検査、HPAPをきたしうる遺伝子検査は研究レベルであり、保険適用外である。
日本呼吸器学会肺胞蛋白症診療ガイドライン2022作成委員会編. 肺胞蛋白症診療ガイドライン2022. メディカルレビュー社, 2022
2APAPの検査1,2)
各検査の特徴的な所見は表2の通りです。
表2 肺胞蛋白症の検査と自己免疫性肺胞蛋白症の特徴的な所見
検査 | 特徴的な所見 |
胸部X線所見1) | 両側対称性に中下肺野に分布する浸潤影 等 |
胸部HRCT1) | すりガラス様陰影、小葉間隔壁肥厚像、小葉内網状影およびこれらが重なりあった所見(crazy-paving pattern)、コンソリデーション |
気管支肺胞洗浄液(BALF)検査1) | 白濁から黄白色の外観を呈し、時間の経過とともに沈殿。ギムザ染色、パス染色、パパニコロー染色(ライトグリーンに染色)で、背景に多数の細顆粒状の無構造物質の沈着 等 |
経気管支肺生検(TBLB)2) | 肺胞壁の肥厚、肺胞腔内のサーファクタント充満、泡沫状マクロファージの散見 等 |
血清バイオマーカー1) | KL-6、SP-D、SP-A、CEA、CYFRAはPAPで陽性、抗GM-CSF抗体はAPAPで基準値以上となる |
肺機能検査2) | 動脈血酸素分圧(PaO2)(室内気下、安静臥位)、肺拡散能(%DLco)が低下 |
1)日本呼吸器学会肺胞蛋白症診療ガイドライン2022作成委員会編. 肺胞蛋白症診療ガイドライン2022. p41, 48, 49, 56, 57, 64, 65, メディカルレビュー社, 2022より改変記載
2)玉置 淳監修:全部見える 呼吸器疾患―スーパービジュアル, p151, 成美堂出版, 2013
3APAPの治療
APAPの治療は、疾患重症度スコア(Disease Severity Score:DSS)に応じて、対症療法(去痰剤、鎮咳剤)、洗浄療法(全肺洗浄〔法〕〔whole lung lavage:WLL〕、区域洗浄)、GM-CSF吸入療法、呼吸不全の治療(長期酸素療法)などを行います(図4)1)。
- 注:
- PaO2は室内気下、安静臥位で測定する。
日本呼吸器学会肺胞蛋白症診療ガイドライン2022作成委員会編. 肺胞蛋白症診療ガイドライン2022. メディカルレビュー社, 2022より引用改変
肺洗浄1)
肺洗浄は、肺胞に貯留した蛋白様物質を洗浄により体外に排出させる治療法で、肺の一部を洗う「区域洗浄」と、片方の肺を全部洗う「全肺洗浄(法)」があります。
- 区域洗浄:
- 気管支鏡を亜区域支に楔入し、1回20~150mLの生理食塩液で各亜区域を3~5回、1~2区域の亜区域支で肺洗浄します。1~2週に1~3回の洗浄が必要です。
- 全肺洗浄:
- 挿管し、全身麻酔下に片肺で換気を行いながら、対側肺への生理食塩液の注入・排水を繰り返します。片肺あたりの総注入量は20L程度です。厚労省研究班における適応基準では、安静時PaO2<70 Torrとされていますが、PaO2≧70 Torrであっても病状が進行する症例や区域洗浄を希望しない症例も適応と考えられます。
全肺洗浄は、世界的にPAPに対する標準的治療法として認識されており、肺胞蛋白症診療ガイドライン2022において強い推奨とされています(図5)。また、国際サーベイランスでは、5年間追跡したAPAP患者368例における全肺洗浄の施行回数は2.5±1.5回であり、3分の1の症例は繰り返しの全肺洗浄を要したことが報告されています。
図5 肺胞蛋白症診療ガイドライン2022 CQ9 全肺洗浄について
CQ9肺胞蛋白症(PAP)の治療のために全肺洗浄(法)(WLL)を行うべきですか? |
ステートメント | 推奨の強さ | エビデンスの質 | 保険適用 |
PAPの治療においてWLLは有効であり、行うことを提案する |
強い |
低 |
あり |
日本呼吸器学会肺胞蛋白症診療ガイドライン2022作成委員会編. 肺胞蛋白症診療ガイドライン2022. メディカルレビュー社, 2022
GM-CSF吸入療法
APAPは、抗GM-CSF自己抗体が過剰に産生され、GM-CSFが中和されることで、肺胞マクロファージのサーファクタント処理能が低下し、肺胞内にサーファクタント由来の物質が蓄積し発症します3)。GM-CSF吸入療法は、肺胞内のGM-CSFを一時的に過剰にすることで、必要量を補充し、肺胞マクロファージのサーファクタント物質の除去能を回復させます4)。
肺胞蛋白症診療ガイドライン2022において、APAPに対するGM-CSF吸入療法は、やや強い推奨とされています(図6)1)。
図6 肺胞蛋白症診療ガイドライン2022 CQ10 GM-CSF吸入療法について
CQ10自己免疫性肺胞蛋白症(APAP)の治療として遺伝子組換えヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(rh GM-CSF)治療は選択肢となりますか?
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ステートメント | 推奨の強さ | エビデンスの質 | 保険適用 |
APAPの治療としてrh GM-CSFの吸入治療を選択肢として提案する |
やや強い |
中 |
なし |
日本呼吸器学会肺胞蛋白症診療ガイドライン2022作成委員会編. 肺胞蛋白症診療ガイドライン2022. メディカルレビュー社, 2022
【引用文献】
- 日本呼吸器学会肺胞蛋白症診療ガイドライン2022作成委員会編. 肺胞蛋白症診療ガイドライン2022. メディカルレビュー社, 2022
- 玉置 淳監修:全部見える 呼吸器疾患―スーパービジュアル, p151, 成美堂出版, 2013
- 中田光. 肺胞蛋白症の病態と治療の最前線. 日内会誌. 2015; 104(2): 314-322. (著者はノーベルファーマ株式会社より旅費等を受領している。)
- 田澤立之. 肺胞蛋白症とGM-CSF吸入治療. 日内会誌. 2021; 110(9): 1918-1925.